子どもなりの勤労感謝の日

 保育園では、様々な行事がある。由来を伝えたい行事、みんなで楽しみたい行事、カレンダーになんとなく記されている行事…。

 11月になると私が若い頃に勤務した園では、勤労感謝会という行事があった。調理員、ごみ清掃員、消防士…の仕事をちらりと見て、『ありがとう』の言葉とともに、子どもたちが作った物を渡し、感謝するのだ。ただ、これが、どう子どもたちに伝えたら良いのか、よくわからず、形だけの感謝になっていたと思う。子どもたちにちゃんと伝えられたのかと、反省したことを思い出す。

 そして、数年後の現在、3歳児が、ここ数日、ラーメン屋ごっこを楽しんでいる。登園してくると、頭に大判のハンカチを保育士に巻いてもらい、エプロンをつけて、キッチン台にむかって、何やら一生懸命だ。しばらくすると、メニュー表を保育士に持って来て『なにがいいですか?』と聞きに来る。(その間に狭いキッチンで、同じことをやりたい子どもたちでトラブルになり、3口コンロ(手作りおもちゃ)の取り合いがある 笑)

 3歳児だからか、まだ、遊びの中で、分担はできず、注文を聞きにくるのもそれぞれの子が来るから面白い。保育士は、朝からラーメン、ぎょうざ、チャーハン、レバニラ炒め(笑)などを子どもたちに注文する。そして、それがひと段落すると、次は出来上がった物が保育士の元に運ばれてくる。保育士は「熱いですね」「おいしいですね」「ちょっと薄いですか?」などと遊びを楽しめるようにする。そのラーメン屋の店主をやっていた子が、ある日突然、交通誘導員に変わった。

 登園してくるといつものように大判のハンカチを持ってきた。そして、保育士に言った言葉は『いいですよ~って、言う人にして』だった。保育士は、いつもと違うことを言い出したことで、どんな人なのかわからず「うん?」と聞き返した。すると子どもは、もう一枚のハンカチを手でぐるぐる回しながら、『行ってください』とその人物の行動を真似しながら教えてくれた。保育士は「あ~、わかった!工事で道路を誘導してくれる人だね」と答えた。そして、ヘルメットって、どうハンカチで表現するのか…?と悩みながら、なんとなくそれらしく頭をすっぽり包んで「はい、できた!」と子どもを鏡の前に立たせてみた。その子は、「うん」とうなずき、子どもたちが遊んでいる方へ走って行った。

 その時に、ふと、これが子どもなりの勤労感謝なのではないかと思った。この子どもたちの姿を遊びが楽しめるようにより必要な環境を準備し、そして、「お仕事ご苦労様」や「ありがとうね」など、保育士が、なりきっている子に感謝の言葉を伝えてみたらどうだろうか?と考えた。

 子どもたちの遊びは、なにか、そこに面白さ、興味を感じて真似をし、遊びになっていく。子どもたちが、真似をしたラーメン屋にしても交通誘導員にしても、興味をもっていることは間違いがない。あとは、保育士が、少しプラスした何か(感謝の言葉をかける、環境を準備するなど)をすれば、保育士からの押し付けた勤労感謝ではなく、子どもたちが、自分自身から気が付いたり、感じたりする勤労感謝になるのでは!と。

 そう、これで、十分なのだと思った。